祖父母の1人掛け木肘レトロソファ

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ソファに囲まれる生活

祖父母の1人掛け木肘レトロソファ

わが家の縁側には、2つの木肘付きレトロソファがあります。
それは祖父母が買い入れたもので、グリーンとベージュのシンプルなソファです。

縁側は、わが家の一番奥の座敷に続いていて、そのソファからは、庭の隅々までを
眺めることができます。

祖父母は2人とも、植物がとても好きだったそうです。
大抵はいつも2人で、庭いじりをしていたそうです。

そして午後のひととき、そのソファに座り、庭を眺めながら紅茶を飲むことをとても
楽しみにしていたそうです。

そんな祖父母が亡くなって、今年で30年になります。
私は祖父母を全く知りませんが、最近よく、周囲の皆から祖母に似ているといわれるのです。

誰かに似ているといわれると、どうしてもその人のことが気になってしまうものです。
私もそれに違わず、祖母のことが気になり始めました。

それまでは、古い写真で見たことが2、3度あっただけでした。
でも、母に訊いてみると、祖母の本があるというのです。

押入れのダンボールの中を、がさごそと探してみました。
そして見つけたのが、エッセイ集でした。

祖母は文章を書くことが好きで、毎日の出来事を、日記に綴っていたのです。

そのエッセイ集の中には、祖父と2人で庭を眺めながら話す、毎日の他愛ない風景が描かれて
いるだけでした。

でも、読み始めてみると、私はその文章の中に惹き込まれてしまいました。

庭の木や、花や、時折そこへ迷い込んでくる鳥や虫たちのことを、祖母は、
丁寧に描いていました。

私は、縁側へ行き、祖母のグリーンのソファに座りました。
そして、そこから、庭を眺めてみました。

たったいま読み終えた、祖母のエッセイが、眼前に拡がります。
夏の暑い日に、それでも熱い紅茶を飲みながら、祖父が話しかけてきます。

祖母は右手を上げて、庭の右端の椎の木を指差します。
ツクツクボウシはあの椎の木で鳴いているのよ…と、応えます。

でも祖父は違うと言い張って、顔をしかめます。
眼を閉じて、耳を澄ませて、それから、こっくり、こっくりと、眠ってしまうのです。

2012年1月14日 / タグ:[ , , ]