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その昔、携帯電話が普及していなかった頃は、友人や彼氏とコンタクトをとるには
固定電話を使用するしか方法がなかった。
中学生のときに初めて好きな人ができたとき、お互いの家に電話をかけ合う時ほど緊張感が
高まる瞬間はなかったものだ。
また、当時はトレンディドラマの全盛期だった。そのブームを支えたのも、
固定電話であるがゆえのすれ違いが、ストーリーを盛り上げてくれたからだと感じる。
今は大事な用以外はメールで済ます、という人も多いよう。そんな時代だからこそ、
あえて電話をする時間を作るように心がけている。
電話をかけるのは決まってソファの上だ。相手から見えないことをいいことに
自由気ままな格好と、自由気ままなスタイルで電話をかける。
「声」の安心感ってすごく心地がいい。離れていると、相手には相手の世界があり、
時間がある。だから自分の知らないことが向こう側でたくさん起こっている。
もちろんそれは誰にとってもそうだし、当たり前のことなのだけど、なぜだかそれが
無性に寂しく感じることがある。
学生時代じゃあるまいし、お互いのことを何でも知っておく不可能に決まっているのに、
大人になったつもりでも、急にそんな幼い自分が顔を覗かすことがある。
多少うざったくてそんな自分を持て余していたりするのだが、そういう時に、
電話越しに相手の声を聞くと不思議と気持ちが落ち着いてきたりする。
しばらくコンタクトを取っていない友人に電話をかける時、いつも少し緊張する。
急にかけて迷惑だと思われないだろうか、相手はまだ自分のことを気にかけているだろうか。
近況報告というほどに自分の身には何も起こっていないし、何の変化もないのだけど、
そうしてお互いの声を聞き、話をするって大事なことだと思う。
記憶は愛情と言うけれど、それと似た類で、受け取り側もきっとまたそこで安心感を
持ってくれるに違いないから。
ソファの上でドキドキしながら、相手の反応を想像するのも楽しい時間なのだ。