不思議図書館の焦げ茶色のソファセット

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ソファに囲まれる生活

不思議図書館の焦げ茶色のソファセット

私が住んでいる町の港付近に、不思議な図書館ができたという噂は、またたく間に
拡がりました。

それは木造の二階建で、おおよそ図書館とは思えない小さな建物でした。
利用者など誰もいなくて、何だか怪しいという噂までたち始めました。

それもそのはず、その図書館は有料だったのです。
しかし人の心理とは、複雑なものです。

怪しくて、入場料まで必要だといわれると、何だか興味が湧いてくるのです。
休日の午後、私は恐いもの見たさで、その図書館へ向いました。

港には大小の船が停泊していて、寒風が吹き荒れていました。
そんな海風の中に、その図書館はありました。

ぽつり…と、広い埋め立て地の真ん中に、妖しく建っていました。
図書館の玄関に近づくと、木のドアにはめ込んだガラスに、張り紙が見えました。

入場料は社会人が100円、学生以下は無料となっていました。
やっぱり変ね…と、私は思いました。

普通なら、料金は大人や子どもで分けてあるものです。
それなのに、社会人という分類の仕方が、私は変だと感じたのです。

でも、その変わったところが、また私の好奇心を駆り立てます。
私は、木のドアを押し開けて中へ入りました。

でも誰もいません。
奥に眼を向けると、そこには広いブラウジングルームがあるだけでした。

そのブラウジングルームを囲むようにして、天井まで届く高い棚が並んでいます。

そして、そのブラウジングル―ムの焦げ茶色のソファセットの隅に、1人の老人が
座っていました。

私がその場に立ち尽くしていると、その老人が近付いてきました。
「どうぞお金はこの中へ」と、透明の瓶を差し出しました。

どきり、として、私はその中に恐る恐るお金を入れました。
そしてソファセットに座ると、ふうわりと、体中がソファの中に沈み込みました。

それは意外にも、とても良い座り心地でした。
私は、その焦げ茶色のソファセットが、いっぺんに気に入ってしまいました。

棚を見ると、そこにあるのは全て絵本でした。
絵本が大好きな私は、あれもこれも取り出してきて、もう夢中で読み始めました。

そんな私をみて、老人が、可笑しそうに微笑んでいます。
さっきまでの怖さなど、もう微塵もありませんでした。

やっぱり来てよかった…そう思うと、何だか嬉しくなってきます。
少し照れながら、私も老人に微笑み返しました。

2012年1月30日 / タグ:[ , , ]