TOP > ソファスタイル コラム > ソファーに囲まれる生活 > 四畳半の木肘付きレトロソファ
四畳半という狭いわたしの部屋には、ソファがあります。
レトロな木肘付きソファで、しかもそれは2人掛けタイプなのです。
ベッドと机を置くと、もうほとんど身動きなど不可能です。
ドアを開けて部屋の中に入るのさえ、一苦労するのです。
「どうしてそんな馬鹿な真似をするの?」と、両親はいいます。
そんなにソファが欲しいのなら、ソファベッドを買ってあげると、しつこく迫ってきます。
日中はソファとして使い、夜はベッドにすれば、部屋をもっと広く有効に
活用できるというのです。
でも私は、そんな両親のいうことをまるで聞きません。
私には、その木肘付きレトロソファをどうしても手放したくない理由があるのです。
厳格な祖父は、いつもそのソファに座っていました。
そのレトロソファは祖父の大のお気に入りで、くつろぎのときは大抵
そのソファに座っていました。
まだ幼なかった私とふたり、ゆっくりと流れる時間を楽しんでいたのです。
その日、私は、祖父の膝の上で絵本を眺めていました。
祖父が声を出してページの文字を読み、私は可愛いらしい絵を眺めていました。
それはウクライナ民話の<てぶくろ>というタイトルの絵本でした。
人間が森の中に落としていった、片方のてぶくろにまつわるお話でした。
季節は冬で、そのてぶくろは、森の中の雪の上に落ちていました。
最初にネズミがてぶくろの中に入り、カエルやウサギやキツネもやってきて、
次つぎにてぶくろの中に入っていきます。
当然、てぶくろの中は、どんどん狭くなっていきます。
私は箪から、自分の赤いてぶくろを取り出してきて、本当にそんなところに
入れるものかどうか、考えていました。
祖父はというと、そんな私の心中を見透かしたように、私の手からてぶくろを
取り上げると、木肘の上に置きました。
動物たちは、どんどんとてぶくろの中に入っていきます。
そして最後に、熊がやってきました。
熊なんか入れるわけがない、と思い、息を飲んでいる私の身体を、祖父はぎゅっと
抱きしめながら読みつづけます。
私はもう、どうすることもできなくなって、ふり返って祖父の顔を見上げました。
祖父は、顔いっぱいに笑みを浮かべて、こくりっと、首を縦にふります。
それを見た私は安心して、ふたたび絵本を眺めるのでした。