TOP > ソファスタイル コラム > ソファーに囲まれる生活 > 父と母とパパサンチェアと私
私がパパサンチェアを購入した日曜日の午後。
父と母は、リビングでテレビを観ていました。
家具屋さんが、私の部屋の中へ運び込むそれを見て、父は「おっ」と、声を上げ、
母は「あら」と興味深そうに話しかけてきました。
「籐なの、それ?」「そうよ、いいでしょう」
母は軽くパパサンチェアに腰を下ろし、それから籐で編んだイスの部分を手のひらで
撫でました。
「確か、パパサンチェアっていうんでしょ、これ?」
「そう、パパサン」私がいうと、母は納得したように頷き、テレビを見ていた父が、
にやり、と、笑いました。
その笑みがいったいなにを意味していたのか、そのときの私には皆目見当が
つきませんでした。
私のお気に入りのパパサンチェアは、バリの伝統的家具です。
籐で出来ている椅子の部分は70センチ×70センチの大きな円形で、その上に
110センチ×110センチの正方形のふかふかのソファが乗っています。
お椀のなかにお尻を落とすような座り心地はなかなか快適で、体を丸めてソファの
中央部に寝転がると、生まれる前に母のお腹の中にいたときはきっとこんなふうに
していたのだろうと、何となくそんなことを想像してしまいます。
私は毎日、自分の部屋で、このパパサンチェアでリラックスしていました。
でも、たまにはこの体制のままでテレビ鑑賞をしてみたいと思い、リビングに
パパサンチェアを持ち込んだのです。
するとどういうわけか、テレビを見ていた父が、ふたたび、にやり、と、笑ったのです。
そして次の日、残業で遅くなった私が帰宅すると、父がパパサンチェアを占領しています。
リビングへ持ち込んだりしたのは私なので、あまり文句は言えませんでしたが、
どうみてもそのデザインと父とは不似合いです。
でも一応「座り心地はどう?」などとご愛想で私が訊くと、「まあまあだな」父は
ぶっきらぼうに答えます。
しばらくは辛抱していたのですが、ついに我慢仕切れなくなって私は父に
「それは私のよ」と、遠慮がちにいいました。
すると父は居直ったように「パパサンなんだろ?」というのです。
とぼけているのか、からかっているのか、そのどちらであっても私は納得できません。
「早く返して」ふたたび父に迫る私を横目で眺めながら、母がお腹を抱えて
笑い転げています。