TOP > ソファスタイル コラム > ソファーに囲まれる生活 > 白いコーナーカウチソファの美味しいシミ
リビングのコーナーカウチソファの私の定位置は窓際です。
大きな出窓のすぐ近くで、足元には常にオットマンが置いてあります。
ソファの真ん中は父の場所で、母はドア近くの北側の端に座ります。
3人掛けのソファは真っ白で、それは母のお気に入りの色でした。
しかし白というのはとても汚れやすく、常に気を使わなければならない色でした。
少しでも食べ物をこぼしたりすれば、純白のソファにシミが付いてしまいます。
だから我が家では、ソファに座るときには飲食をしない約束になっていました。
それなのに、ある平日の午後……。
父は会社で、私も本当なら勤務のはずでした。
でも先週の日曜日の半日出勤の代休をと、突然、午後からお休みになったのです。
映画でも観ようかと思ったのですが、家でゆっくりと過ごすのも悪くないと思い直し、
私は家に帰りました。
なにげなく出窓からリビングを覗くと、母がひとりソファに座っています。
膝の上には、イチゴジャムがたっぷりと乗った大きなビスケットが3つ。
その中の1つを指で摘んで口に入れようとしたとたん、ビスケットがころりと
ソファの上に転がり落ちました。
私はすぐに玄関へ走りました。チャイムを押して「ただいま」と家中へ駆け込みました。
母はといえば、ばたばたとキッチンへ走り、それから平静を装って玄関へ出てきました。
その夜、父と母と私の3人は、いつものようにリビングのソファに座りました。
母の定位置である北側の座部には、小さな赤いシミが出来ています。
そのシミに気付いた父が、「大丈夫か? けがでもしたんじゃないのか?」と母に訊きます。
そして私は、黙ってその成り行きを見守っていました。
「だいじょうぶよ」と、言葉を濁しながら何かを考えていた母が、ついに決意したように
立ち上がりました。
しばらくすると母は、トレイ一杯のイチゴジャムビスケットを運んできました。
「どうしたんだ、いったい?」不思議そうに訊ねる父の横合いから、私はビスケットに
手を伸ばしました。
準備したシミ取り剤を使うのは、もう少し後にします。