ソファと懐メロ

ソファと過ごす彩り時間

ソファと懐メロ

幼い頃、母や祖母が、はるか昔に流行したヒットソングを歌っているのを耳にしては
「もう時代は移り変わっているのに、古い曲ばかり歌って。」などと思ったものだ。

いま、流行している素敵な曲はたくさんあるのに、何故わざわざ、と。

逆に母や祖母からは、好きなバンドの最新曲をCDで流していると「全て同じに聞こえる」
などと笑いながら茶化されていたものだけど。

でも今、自分が自宅のソファの上で聴いている曲も、およそ10年前に流行したものだ。

年齢を重ねてようやく分かる、母や祖母の行為の意味。
自分が生きてきた時代ごとに、当時流行した音楽というものがあって、
その中にいくつか、何年経っても色褪せない曲というものがある。

五感のうち、脳に一番早く伝わるのは嗅覚であるというが、
それならば、心臓に一番早く伝わるのは聴覚であると思う。

高校の友達とよく口ずさんでいた若手アイドルのPOP、
大好きだった彼氏と一緒に聴いていたロックバンドのバラード、
社会人の先輩からすすめられたシンガーソングライターのR&B。

何故だろう、イントロを聴いただけで、何よりも先に胸がぎゅっと痛くなる。
そしてそれから脳に伝わったのか、その曲に出会った当時の思い出や景色、
会話などが思い出されてくる。

胸の痛みは、悲しい記憶のせいじゃない。むしろ楽しい記憶が多いほうが
よりその痛みは強く響く気がする。まるでそれが体中を駆け巡るかのように。

関心ごととか、悩みごととか、曲の歌詞に照らし合わせては、少しセンチメンタルな
感情に浸っていた、あの頃の自分。
その曲の歌詞が本当に意味していることなど、まだちっとも分かっていないのに。

当時は、実家の部屋にあった小さなソファに座って、その世界に入り込んでいた。
今は、一人暮らしの部屋にあるソファになった。

母や祖母も、こんな気持ちで昔の曲を口ずさんでいたのだろうか。
今度、その曲と一緒に胸をときめかせている思い出を聞いてみようと思う。

2011年12月26日 / タグ:[ , , ]