祖母のレバー式まごころ座椅子

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ソファに囲まれる生活

祖母のレバー式まごころ座椅子

祖母の部屋は、縁側のある12畳の和室です。
その縁側は南向きで、庭の隅から隅までを一望できます。

今は冬なので、いくら陽射しが差し込んできても、ガラス戸を開け放つということは
出来ません。

それでも障子を開け放つと、木々や草花に積もった雪景色を、暖かな和室から眺める
ことが出来るのでした。

祖母は、その和室の中で、一日のほとんどを過ごしています。

祖母お気に入りの、まごころ座椅子に座り、本を読み、テレビを見て、ときおり庭を
眺めています。

その座椅子は、360度くるくると回転します。
座ったまま、どの方向にでも、向きを変えることが可能なのです。

更に、レバーを調節すれば、背もたれがリクライニングするという、優れ物です。

座卓に向かい、本を読んでいたかと思うと、祖母はテレビのリモコンを握って、
くるりと右に90度回転します。

お気に入りのクイズ番組を観ながら、回答者になったように、答えを声に出します。
それに飽きてくると、今度はさらに90度回転して、障子戸を開けます。

縁側の吐き出しのガラス越しに、庭を眺めるのです。
雪景色の中に、真っ赤な椿の花が咲いています。

その椿の木の枝に、ヒヨドリがとまっています。
祖母は、そのヒヨドリの忙しい鳴き声を聞きながら、自分でも鳴き声を真似てみます。

「少し違うわね」などといいながら、冬の庭を楽しむのでした。

私が祖母の部屋にお邪魔をすると、祖母は決まって、昆布茶を入れてくれます。
小さな赤茶色の急須に、小さじ1杯の昆布茶の元を入れ、電気ポットからお湯を注ぎます。

うぐいすの模様の湯呑みと、あんこのたっぷり入った最中を、丸いお盆に乗せて
出してくれるのです。

冬の暖かな陽射しが、締め切った縁側のガラス戸の内側に、注ぎ込んできます。

祖母と私は、眩しいほどの純白の景色を、そのぽかぽかとしたお日様の恵みの中で
楽しむのです。

くるくると、まるで遊園地の乗り物にでも乗っているように、祖母は座椅子を回転させます。
そして、そのうち、その動きが、ゆっくりになってきます。

気が付くと、祖母のまぶたは閉じて、いつの間にか眠っています。
待ち遠しい春は、もうすぐやってきます。

2012年2月3日 / タグ:[ , , ]